れを四角に拵へて、濃い餡のなかに突込んで、それを引上げて晒すと、その餡が冷えてくつつくのですから、いはゞ羊羹のメツキなんです。
 色といひ形といひ、いかにも羊羹を切つたやうに見せかけてあります。中は勿論羊羹の味はしない。この形が一見をかしいと同様に食べてうまくありません。それで、このお菓子の文化性といふものを考へてみました。このお菓子が何かしら日本の現代文化といふものを、それとなく現してゐるやうに考へたのです。といふのは、このお菓子が、偶々羊羹に見せかけてある、さうして買ふ人の購買心を唆るといふ、余りほめることのできない心理がそのお菓子のなかから感じ取られます。
 先づ第一に、見た目に美しくないので芸術性を欠いだお菓子です。それから菓子屋がそれを作る場合、羊羹に見せかけようといふ気持で作つたことが、はつきりとわかるお菓子であります。これは、さういふ意味で非常に倫理性(道徳性)の低いお菓子であります。それだけの材料を使へば、もつと味もよく、また洗煉されたお菓子が出来さうに思へるのですが、非常に粗雑なのです。それで、これは少しこじつけになりますが、もう少し工夫をすれば、立派なお菓子が出来る
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