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厚生部門
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厚生事業関係者、労務管理者、医師、歯科医、獣医、薬剤師、其他医療関係者(産婆、看護婦等)、武道教師、体育関係者
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技術部門
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農林・水産技術者、鉱業技術者、工業技術者、交通運輸技術者、通信技術者、情報宣伝技術者、商業技術者、金融・保険技術者、生活補助技術者(料理人、理髪師、美容師等)、其他ノ技術者
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娯楽部門
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映画・演劇関係者、大衆演芸家、室内競技関係者
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 右は厳密な調査を経たものではありませんし、なかには純然たる文化職域とは云へないもの、つまり、商工業として経済職域に跨つてゐるものなどもありますが、職業の性質上、「物」を対象としない、或は「物」を対象としても、その「物」の取扱ひ方が、国民生活の経済的な面よりも寧ろ文化的な面に大きな関係をもつ職業は、ひとまづこゝにかゝげてみたのであります。
 例へば理髪業のやうなものは、商業と見做され、商業報国会といふ新しい組織のなかに加へられてゐますが、これは元来、「物」の売買をしてゐるのでないことは勿論、「物」を作るのでもなく、若し、頭髪に「加工」するとすれば、これは人間の身体の一部ですから、整形外科の医師の仕事に近いわけであります。医師は立派に文化的職域に属してゐるのですから、衛生上の必要からと外容を整へる目的とで成り立つ理髪業も、それに準じて少しも可笑しくはないのです。
 そこで、文化新体制とはどういふことをいふのかといへば、これらあらゆる職域の者が、自分の利益のみを追はず、国家目的に最も適つた仕事ぶりをするやうに心構へを改め、かつ、さういふ風に仕事ができる完全な組織を作り、一歩進んで、国民全体の「文化」を向上させるために、それぞれの立場で全力を尽すやうな姿勢を整へることであります。

[#7字下げ]四[#「四」は中見出し]

 国民生活を「文化」の現れとしてみる時、国家の理想を基礎とし、正しい伝統の精神を根深く宿したものであることを前提として、私はなほ三つの面からこれをみなければならぬと思ひます。第一に、「能率」があがつてゐるかどうか? 第二に、心身ともに「健康」であるかどうか? 第三に、「品位」を保つてゐるかどうか?
 能率をあげるためには、仕事を含む個人または集団の生活が先づ規律正しくなければなりません。仕事のしかた、生活のしかたが上手でなければなりません。これには技術の工夫錬磨が必要です。無駄を省き、計画的に労力と時間を使ひ、順序を正確に踏まなければなりません。適度の休養も取らなければなりません。明朗な気持を持ち続けることも大切です。
 身体の健康は、平時に於ても等閑に附してはなりませんが、特に戦ふ国民として是非とも最高度に保たなければなりません。
 それがためには、病気にかゝらぬ衛生上の注意以外栄養の摂取と適度の鍛錬が必要です。第一に、われわれ日本人は、もつと「健康のよろこび」についてはつきりした自覚をもたなければなりません。からだが丈夫でないことを望むものはゐない筈ですが、さうかと云つて、ほんたうに「健康」といふことを楽しい仕合せなことだといふことを身にしみて感じ、健康の上にも健康を願つてゐるものがいくたりありませう。これはつまり、国民の「健康観」といふものがしつかりできてゐない証拠で、これでは国民の体力を十分に引きあげることはできません。
 従来、肉体的健康といふことは、どうかすると精神的な能力と比例しがたいやうな、俗な考へ方が世間に可なりひろがつてゐて、才子多病といふ言葉さへあるくらゐですが、これはつまり、久しい間、「文化」のかくあるべき姿を見失つた時代がつゞいたからであります。
 しかし一方、健康な精神は健康な身体に宿るといふ訓へもあるとほり、逞しい精神力、殊に、頭脳と意志と感情との円満な発達と、その旺盛な活動は、どうしても、肉体が健康であることを条件としなければなりません。
 それはさうと、肉体的健康は、自分にもおよそどの程度かといふことがわかり、医師の診断に従ひ、或は相当な指導者について、体質の向上、筋骨の錬磨ができますけれども、精神の健康といふことについては、第一、自分ではなんとしても正確な判断がつきかねるばかりでなく、どうかすると、人によつて見るところがまちまちであります。
 現在の日本にとつて、最も重要なことは、国民の「精神的健康」を取戻すことだと思ひます。日本の国内の情勢を通じて、挙国一致、総力結集の実を挙げるために、若しいくぶんでも障碍になるものがあるとすれば、それは外でもない、古代の日本民族が世界の何れの民族よりも豊かにもつてゐた、あの健康なものの考へ方、ものの感じ方、そして
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