ゐる人の間に、おのおの、専門家を一丸とする団体の結成といふ議が進められ、既に一部は実現をみたものもあつたのでありますが、なにぶん、それぞれの分野にはつきりした指導精神といふものがなかつたのであります。国民の後継者たる児童たちに、今、何を与ふべきかといふ問題は、なによりも、今日までの児童観、誤つた自由主義的な「子供を観る眼」から是正して行かなければならないのでありまして、それには確乎とした国家の方針が定められてほしいのであります。
 そこで、翼賛会文化部に於て、先づ、児童関係の文化行政に従事する各官庁の主務官に参集を乞ひ、児童教育に造詣の深い各専門家との合同協議によつて、政府としての指導監督を各官庁まちまちといふこれまでの弊を除くこと、民間の専門家及び関係業者の間に緊密な交流連絡を行ふ組織を作ることを決定したのであります。
 参考のために記しておきますと、現在、児童読物の監督検閲は内務省、絵本の指導推薦は文部省、演劇と紙芝居は警視庁、映画は主として内務省、玩具は商工省、幼児の哺育器具材料は厚生省といふ風に、専門があまりに分れすぎてゐて、それを綜合した統一的指導といふものが何処でも行はれてゐないといふことは、日本の「文化」を正しく育てるうへに於て、見逃すべからざる欠陥であります。
 そこで、児童に関する学校教育以外の「文化」機構を、国民運動の一環として整備し、これを強力に推し進めるために、少国民文化協会なるものが生れたのであります。
 この協会の活動によつて、例へば玩具なら玩具のほんとの「文化」価値が国家的な立場で考へられ、道徳的、科学的、芸術的な観点から、少国民の育成に最も適した、立派な玩具の製作配布が企図せられるでありませう。

 国民組織としてこれも最近結成をみつゝある地域的職域的な団体、産業報国会、商業報国会、青少年団、日本婦人会、翼賛壮年団等は、いづれも文化部またはそれに相当する部を内部機構としてもつてゐますが、なかには、「文化」といふ意味を非常に窮屈に解し、または著しく軽く扱つてゐるところがあります。市町村等の自治行政機関の内にも、やはり文化部或は文化課といふ部門を作る傾向が現れて来ましたけれども、これまた、名前と実際とがどうも釣り合はないやうなものが間々見うけられます。
 極端なものになると、「文化」即ち「娯楽」といふ風に考へてゐるのではないかとさへ思はれ
前へ 次へ
全24ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング