て安きを望まんより、進んで躓かん。躓かば勇を鼓して更に起たんのみ」と、自ら「新芸術の肯定と擁護」を標榜して、若き芸術家の群に投じたのである。
 ――泣いてやしませんよ。
 そこで、美術展覧会、演奏会、詩の朗読会、脚本の試験等が度々催される。
 筆者は、ララ夫人を主役とするポオル・クロオデルの「正午の分割線」を聴いた。そして感嘆之を久しうした。よかつたですよ。クロオデルは、ほんとうに偉いと思つた。これは失礼、ララ夫人はおそろしい芸術家だと思つた。役者も、かうなると、ほんとうにわれわれの仲間ですね。態度がね、意気がね。
 うれしかつた。ほんとうにうれしかつた。――え、僕、泣いてやしませんよ。

 ララ夫人は、「真の芸術的演劇は、室内劇である」と云ふ。
 おや、こんなことをお話しするのではありませんでしたね。

「コポオさんにお会ひになりたいんですか、ヴィユウ・コロンビエの……。大使か文部大臣の紹介状を持つてゐらつしやい」
 これには一寸面喰つた。
 コポオは愛国者である。ララ夫人は左傾党である。

 そのララ夫人が、亜米利加あたりから流れて来た日本声楽家の「剣の舞」といふものを観て悦んだ。
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