で、今日の仏国劇壇に重要な地位を占め、且つその作品は、決して時代の推移と共に価値を減ずることがあるまいと思はれる作家に、ジョルジュ・ド・ポルト・リシュがある。
彼はキュレルに比して、理想主義的傾向は薄いにも拘はらず、その作品の劇的生命は、むしろより豊富で、且つより力強いものがある。彼が写実主義者である点、その流れをアンリ・ベックに汲んでゐると云へば云へるが、彼の特質は、全然優れた心理解剖家であることである。彼は、然しながら、ベックの如く冷やかな眼で人生を視ることは出来なかつた。一面、情熱の詩人である彼は、その解剖のメスを彼自身の心臓の上に加へた。彼は作中の人物それぞれの中に、己れの希望、不安、懊悩、怨嗟、諦めを与へ、自らその人物と倶に微笑み、戦き、身を投げ出し、泣き叫び、息づまるのである。彼の感受性には多分の「女性らしさ」があり、その表現には極めて虔ましいコケットリイと、やゝ捨鉢な露骨さが入り混つてゐる。
彼は自作全体に「恋愛劇」の名を与へてゐる如く、彼の作品はことごとく赤裸々な恋愛史である。華やかにも痛ましい性的争闘の活写である。彼が描くところの男女は、ことごとく「性の犠牲」であ
前へ
次へ
全37ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング