グラウ、ピランデルロなどを好んで上演する所以である。此の一座から、最近、仏国作家として、マルセル・アシャアルを生んだ。『あたいと一緒に遊ばない』の一作は、此の少壮作家の卓抜なる喜劇的才能を認めさせた。
 バチイは、仏国では他に類のない純粋の舞台監督である。それだけ、彼の演劇論には、北欧演劇学者の影響があるが、彼は何よりも、無名作家の発見に努力し、新作の上演を唯一の看板としてゐるだけに、どこか新劇運動者らしい溌溂味がある。此の一座から世に出で、大なる未来を嘱望されてゐる作家に、ジャン・ジャック・ベルナアルがある。父トリスタンの血を享けてゐるにも拘はらず、彼は、グロテスクな喜劇に向はずして、静かな情緒劇に筆を染めた。『マルチイヌ』『二度燃え上らない火』『旅の誘ひ』等に於て、あくまでも、蕭やかな魂の囁きに耳を傾けた。「音もなく咲いて音もなく凋む一輪の花の命を、或る限られた時間に観察することが出来るとしたら、それは恐らく、彼の戯曲を観ることになるであらう」といふ批評は、蓋し、繊細な暗示に富む心理描写の清澄な詩的表現を云ひ尽してゐるやうに思はれる。
 その他、戦後の巴里劇壇が生んだ新進作家中、ド
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