まる事件の推移と、興味深き心理の回転が、嫉妬の焔を戯画化して抱腹絶倒の場面を現出するのである。しかも、作全体を流れる詩は、憂鬱にして神秘、フラマンの海と森とを包む、たそがれの唄である。
 彼は、その前に『面師』及び『初々しき恋人』の二作を発表してゐる。『初々しき恋人』は、ミュッセの浪漫主義とマアテルランクの神秘感とを織り交ぜたドラマであるが、その瞑想には、やゝ病的な主観が附き纏ひ、仏蘭西人の趣味には容れられないものがあるらしい。
『張子の王冠』及び『影を釣るもの』によつて、若く名を成したジャン・サルマンは、制作劇場の俳優として舞台に立つ傍ら、劇作の筆を執りはじめたのである。彼も亦、シェクスピイヤ、ミュッセ、マアテルランクの影響を多分に受けてゐる作家である。殊に、何よりも先づ浪漫主義者である彼は、近代青年の懐疑思想を、バイロンの詩に託さうとした。それはハムレットの捨白、ファンタジオの独白に似て、しかもなほ一層虚無的な心境の告白である。眼まぐるしき感情の飛躍と、未知の世界を凝視する静かな理智の閃きと、そこから、或る独特な心理的リズムを醸し出すところに彼の劇的天分がある。
 彼はその後、制作
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