を盛つてゐる。吾々は、その本質を探究吟味して、これを完全に舞台の上に活かし、凡ゆる不純な分子を斥けて、演劇の光輝と偉大さとを真に発揮せしめようといふのが、コポオの主旨である。新奇を衒ふ似而非芸術家と、因襲を墨守する官学的芸術家への挑戦である。
 ヴィユウ・コロンビエ座は、そこから「無名作家を世に出す」ことを誇る前に、明日の作家をして、演劇の本質を体得せしめ、彼等をして、「永遠に新なる」作品を創造せしめようとする。
 此の運動は、欧洲大戦のために、一時阻止されてゐた。

     四、欧洲大戦後

 欧洲大戦は、あらゆるものを覆へした。死の影が仏蘭西全土を包んだ。奪ひ取つたものゝ狂喜と取り残されたものゝ悲嘆が巴里の街頭に交錯した。婦人が経済的に独立し始めた。中産階級が姿を消した。神を信じてゐたものが神を呪つた。神を嘲つてゐたものが神の前に拝跪した。眼を「自己」の上から「民族」の上に転じた。その眼を、更に、「自己」の上に投げた。
 その渦中から、小説では、バルビュスの『砲火』デュアメルの『殉教者の生涯』が生れたに拘はらず、劇作の方面では、殆ど見るべきものがない。
 たゞ一九一六年、史詩的象
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