随意であるといふのである。
ミルラン君――繰り返して云ひますが、本員は、検閲の方針が場合によつて異るといふことを心外に思ふのであります。ところで、文部大臣はこの戯曲を以て上演不可能なるものとなし、しかも、その戯曲の一部を本議場に於いて朗読せられたのであります。それは既にある部分が公然上演せられても差支ないといふことを、文部大臣自身裏書をされたやうなものであります。文部大臣は恐らく、検閲官が禁止をした、カフエー・コンセールの小唄をこの議場で口吟まれることはできないでありませう。本員は飽くまでも、当局の態度が、淫靡軽薄なるこれら、俗謡に対する場合に、寧ろ寛であり、悲痛にして、厳粛な文学的作品に対して、却つて、厳であるといふ事実を責めようとするものであります。(盛なる拍手)
議長――これで討議を終ります。
議会傍聴はこれだけにしておくが、翌日、新聞フィガロは、この論議について、長文の社説を掲げ、最後に結んで曰く、「議会はかくて、一時間余に亘り、採決を要しないこの討議の一場面を喝采した。わが議員連は実際、あまり文学を談ずる機会をもたない。官報議事録を読むものは、演説中しばしば、不適当な
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