たしが、働らかなくつてもいいからだなら……」そこで、男は、女を抱きながら後ろに倒さうとする。
中央の議員――文部大臣、もう沢山です。
文部大臣――なんですか。われわれは、真面目な問題を討議してゐるのです。(「先を読んで下さい」と叫ぶものあり)
もう一句だけであります。男は、草の中を、膝を突いたまま、女の後を追ふ。エリザ。あんたがはじめて来た時、あの時分のあたしは、それや、なんの役にも立たない女だつたの。来る男も……来る男も、汚ならしいことばかり云つてさ……殺してやらうと思つたことが幾度あるかしれない……。それに乱暴でさ……まるで獣さ……。それに、あんたは、あんただけは、それや、優しいんだもの……。大きな声ひとつ立てないで……。男は、だんだん興奮して、なほも女に近づかうとする。そして遂に、女の胴に腕を捲きつける。(議場また騒然。「モウヤメロ」と叫ぶものあり)
男は、相手を押へつけようとする。
諸君、作者は、かくの如くにして、この種の女の生活その儘を描かうとしたのであります。
レイベエル君――寄席の如く……。
文部大臣――恐らく、譬へ舞台の上に、妓楼の内部を現はしたとしても、
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