風俗の非道徳性
岸田國士
一
時局が特に要求する国民の覚悟といふことについて私は考へた。わが国民全体がかうあらねばならぬといふ状態を想像してみる。人間がおほむねさうあり得る現実の諸条件を計算に入れたうへである。
現代の日本人がもつ強味と弱点とがまづ問題になるであらう。
強味はなんと云つても国家意識の旺盛なことである。敵愾心も強い。いざといふ場合、有無を云はぬ。一種の生死観によつて、身命を潔く擲つことができ、悲みに堪へる訓練ができてゐる。先づまづ戦争には誂へ向きの特性を具へてゐると云つていゝが、これをもつて直ちに好戦的だといふことはできぬ。
好戦的にみえるのは、極度の負けぎらひと国民文学の伝統に根ざす戦記風の表現のためである。われわれの戦記は、常にロマンチツクであり、戦ひを美化することに努めた。歴史は武将の行動として花さき、教育は武家の文化として実を結んだ。巷には侠気が根をおろした。
軍事専門家としてはともかく、国民自体は、他の如何なる国民にもまして本質的に平和を愛してゐる。その証拠はいくらでもある。しかも、他の如何なる国民よりも戦争を怖れない。大義名分は立ち
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