武者小路氏のルナアル観
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)汚点《しみ》
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本誌七月号に「読んだ戯曲六篇について」批評の筆を取られた武者小路氏は、たまたま、拙訳になるルナアルの「日々の麺麭」に言及されてゐる。
先づ、訳者としてあれを読んで下さつたことを感謝する。そしてそれについていつもながらの直截な議論に接したことを幸せに思ふ。
あの訳文を、あれだけに買つて頂けば、訳者として瞑すべきである。たゞ、ルナアルに親炙する僕として、武者小路氏のルナアル観には、一応註釈を附けて置きたい気持がする。
武者小路氏とルナアル――かう並べて見たゞけでもなかなか興味があるではないか。
武者小路氏は尊敬すべき楽天主義者である。人類を愛すること神に近き人である。――ルナアルは聡明なペシミストである。「自分も人間でありながら、その人間が自分を人間嫌ひにする」といふ人間である。――武者小路氏は人間の偉大さを信ずる人である。その弱さのうちにさへ美しさを求める人である。――ルナアルは人間の愚さを嗤ふ人である。真実らしさのうちに醜さを見出す人である。――武者小路氏は
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