梅雨期の饒舌
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)雨期《セエゾン・ド・プルユイ》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)われ/\は
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 自分一人の力ではどうにもならないやうなことを、やれどうしなければならぬ、かうしなければならぬと、むきになつていふのは、落付いて考へて見ると、甚だ滑稽であり、ある種の人から見れば、さぞ片腹痛く思はれるであらうが、何時の時代にもまた何れの社会にも、かういふ「おせつかい」がゐて、頼まれもせぬことを、頭痛に病んでゐるらしい。
 例へば、社会改良(或は革命)家とか、文芸批評家とかいふ類の人間は、どつちかといへば、この「おせつかい」が多く、私などは、その何れにも属してゐないつもりでゐながら、たゞ芝居のことゝいふと、何時の間にか眼に角たてゝ物をいつてゐるので、気がついて見ると可笑しくなることがある。

 私は一体何のために、誰のために、こんなにまで「芝居」のことを考へ「芝居」のことを論じ「芝居」のために時間と労力とを費してゐるのだらう。
 かう考へて
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