ほど、マアテルリンクが有つてゐる「あるもの」さへ欠けてゐるであらう。しかしながら、日本に、日本の文壇に、あれほどマアテルリンクの名が宣伝されたのに反して、ポルト・リシュの芸術が時代を同じくして、而も、その片鱗すら紹介されずにゐたことは、今更ながら残念至極である。――それにしても、ブリュウは果報者だ。彼もまた小学生のやうなフランス語を書いて、不勉強な外国人に取り入つた。一世の皮肉屋バアナアド・ショウも、ブリュウのフランス語は読めたが、ポルト・リシュのフランス語は読めなかつたのかも知れない。いや、そんな筈はない。彼はきつと『ふかなさけ』も『過去』も読んでゐないんだらう。
実に鬱陶しい空だ。ヨーロッパにゐて、「雨期《セエゾン・ド・プルユイ》」などといふ言葉を聞くと、、植民地か何かのことのやうに思ふのだが、そして、一種、エキゾチックな風物を想ひ浮べて自ら恍惚とすることさへあるのだが、日本の梅雨期なんていふものは、暑さ寒さにも増して不愉快なものだ。
それや、歌によんだり、詩に綴つたりするなら、梅雨だつて地震だつてよからうが、私は、元来雨を怖れること買ひたての麦藁帽子の如くである。外出して雨にぬれると必ず発熱し、雨にぬれなくても、雨を含んだ風にあたると気分が悪くなるのである。
「わが心の上に雨ふる」といふヴェルレエヌの詩句は、私に生理的な影響を与へる。
底本:「岸田國士全集20」岩波書店
1990(平成2)年3月8日発行
底本の親本:「新選岸田國士集」改造社
1930(昭和5)年2月8日発行
初出:「東京日日新聞」
1927(昭和2)年6月14日、15日、16日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年2月17日作成
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