面白い問題でありますけれども、それはここでは略しましょう。
 職業人としての誇りと嗜みというなかで最後に云いたいことは、俳優のいわゆるスター心理というものです。俳優が少し有名になって、いわゆる贔屓がついて来たというような気持になって来る。ファンから手紙がくる。企業家が御機嫌をとるようになる。こうなると、人間の常として、いわゆる偉くなったような気持がする。偉くなったら、偉くなった気持であって少しも差支えありませんけれども、俳優の場合の偉くなり方というものには、非常にまた微妙な警戒が必要なのです。何故かというと、他の職業であれば、偉くなれば偉くなったで、それ相応の扱いを社会がする。それ相応の扱いを社会がするのみならず、その当人の偉くなり方が少し変ならば、直ぐひっくり返されます。足下が直ぐ危くなります。他の社会は総てそうであります。文学の世界でもそうです。ところが俳優の世界では、その俳優が変な偉くなり方をしても、案外、当人に誰もなんとも云わないのです。これが俳優の場合、所謂変な偉くなり方をすることが多い最大原因です。そうして変な偉くなり方をした役者はどういうことになるかというと、それと同時に
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