般の人から俳優が不信の眼で見られるのは、そういうところにも原因があることを注意しなければなりません。つまり、そういう特質を自分で許しすぎる為でもある。俳優の場合には、それ自身欠点ではないというような性質が、どうかすると、その生活を乱すのですが、これもその例の一つです。
以上三つの点で、普通の人のいう道徳というものと、一見矛盾する点があるように思われます。これは極く表面的な意味で矛盾するように見えるのであって、本質的に、人及び芸術家としての理想が矛盾するのではありません。
更に、この、俳優の、人及び芸術家としての理想の中には、ただ人間として人格の完成を目指し、芸術家として美の創造を目標とするということ以外に、一つの大事な役割の達成があります。それは社会に於ける俳優の文化的役割というものです。俳優も他の文化部門の人達と同様に、世の中の進歩、文化の発達ということに寄与しなければならない。その寄与することが、俳優の一つの大きな役割です。勿論、演劇という芸術を通じて、俳優は演技によってそういう役割を自然に果しているのですけれども、しかし、演劇というものは、俳優一人でできるものではない。俳優は
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