ものでは無論ない。本を沢山読んでいるとかいないとか、これも絶対的でない。しかし、本を読むということ、或は学校に行くということは教養の一部です。
 大事なことは、それからちゃんと栄養になるものを吸収し、それによって生活の規準をより高いところに築いているかどうかということです。しかし、例えば、女の人でいうと、尋常小学校でやめてしまった人と女学校以上の学校に行った人とではそれは勿論家庭の空気にもよりますけれども――およそ声の出し方、声の性質が違うものです。必ずしも、どっちが立派だとは云えません。其の他の条件が加わりますから。しかし、違うことは、それだけで違う。男の場合でもそうです。例えば、肉体労働者と精神労働者は声が非常に違う。これは教養によっても声が鍛えられるという証拠です。そういうように、肉体と精神というものは、俳優の場合には少くとも密接な関係があるのであります。肉体的な素質ということで容貌姿態と声と二つを挙げましたが、この何れも、ただそれだけの価値では絶対的なものでありません。必ず精神的な要素が、それに加って、俳優の肉体的な素質は高められるものであるということを先ず知るべきであります。
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