ない。それよりも、もっとわれわれに魅力があることは、例えば、その顔が非常に聡明であるとか、或はまた非常に意志の強そうな顔をしているとか、そういう風な精神的な特徴を示す言葉で以て云い表さなければならない顔です。これはどういうことかというと、顔にしろ、姿にしろ、肉体そのものの美しさは、精神の裏打ちというものがなければ、それは、まったく感覚的な美しさに過ぎない、少くともそういうものは、俳優の第一の武器ではありません。
 次は声です。
 声はいったい肉体か、という疑問が起るかも知れないが、声というものは、肉体によって発せられるもので、声はどういう風にして出るかということは、生理学でみなさん習っていると思う。だから、声も一つの肉体的素質の中に数えます。この声もまた容貌姿態と同じように、いい声とか、悪い声とかいうけれども、これは、例えば、音楽の方では、いい声と云えば、大体或る標準に基いて、優れた声ということを意味する。耳に快く響く声、つまり音楽に適した声です。しかし、芝居や、トーキー映画に於ては、俳優のいい声というものが、今日まで、それほどはっきりした標準をきめられていません。芝居なりトーキーなり
前へ 次へ
全106ページ中71ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング