事で自分を呼んだのだろう。そうするとその人の最近の消息を考え出して見て、もうじき結婚すると云っていたが、ことによると、相手でも見つかって相談するのじゃないか、その相手はどういう人だろう。あの人はこういう人が好きだと云っていたから、多分こういう人だろう。これが普通云われる想像力で、誰でも所謂想像力が全くないということはありませんけれども、比較的そういう想像をする癖があって、いろいろ想像を逞しくする人がある。想像を逞しくする人、必ずしも想像力の豊かな人ではない。想像を逞しくすることは決して想像力ではない。それが立派にその人の精神的な能力と云えるような想像力は、決してそういう単なる想像ではありません。物事を想像するその仕方の中に一つの確かな拠り所があって、しかもその想像はある現実よりも一層真実であるというような生命力をもっている場合を云うのです。ただああじゃないだろうか、こうじゃないだろうかと、勝手な想像を廻らすような想像は、これはその人の性質とは云えるかも知れませんが、能力とはいえません。同じように頭を働かせながら、その想像が非常にうがっている。少くとも、その想像された世界は、事実そのもの
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