二通りの働きをします。極くわかり易く云いますと、ものごとから受ける印象の度合が普通の人よりも、はっきりしている。ものごとの強弱や変化を鋭敏に感じとる、大概の人がぼんやり知らずに過すようなことを、ピンと感じる、あの働きを指すのです。感性は鋭敏で、且つ豊かでなければなりません。
 ――豊かであるということと、鋭敏であるということは少し違います。豊かであれば、たいがい鋭敏であるが、鋭敏ではあるが必ずしも豊かでないという場合もある。非常に鋭敏だけれども、その感受性は限られた範囲で、その範囲に於てはその人の感受性は鋭敏だ。しかし非常に貧しい、豊かでない。だからその限られた範囲外ではその人の感受性は存外鈍い、という場合がある。感受性は豊かで同時に鋭敏でなければならない。知力、或は知性、というものに対して、感受性は全くそれと違った働きをする、ものごとを感じとる力です。しかし感受性と云えば、所謂受身になる。いわゆる感性と感受性という言葉はどっちもセンシビリティの訳語ですけれども、感性を感受性よりも少し意味を広く私は解釈したい。何故ならば、一方の感性ということはものを感得する、味得するというような場
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