家というものに対して元来社会はそんな見方をしていたのです。ただ、多くの他の芸術家は一般の公衆の前に姿をさらしていない。その作品を通じて公衆に接している。例えば、物語の作者、今日でいう小説家、或は画家、建築家、音楽の作曲家、そういう芸術の製作者達は自分の作品を通じてのみ一般公衆に見えているので、自分の姿をみせていない。これが一つの逃げ道であって、その仕事それ自体に対する社会一般の誤った通念の矢面に立たないですんだ理由です。ところが、俳優、舞踊家、音楽の演奏家、こういう人々は総て自分の姿を公衆の前に出す。それで、俳優ほどではありませんが、舞踊家が踊りをする、音楽家が演奏をするということは、一般世間からそのものが本当に価するだけの尊敬をうけていなかった。小説の作者、或は画家というようなものも、その作品自体で一般の人達を感動させた場合には、その仕事そのものは世間の人達の讃嘆の的になるのですけれども、しかしそれにしても非常に優れた傑作のみが一般世人の讃嘆の的になるのであって、小説を書く仕事、或は音楽の作曲をする仕事、殊にまた舞踊の振付をする仕事自体に対して、世間はなんら理解はなかった。小説の作者
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