のを、余り尊敬すべき仕事でないと考えるような一つの偏見が先ずある。もう一つは俳優になっている人、即ち俳優自身についても、その日常の生活や社会人としての行動や、職業意識の現れなどから、これを普通の人間として尊敬できないものであるかのような考え方をするものがないでもない。みなさんは、俳優を志望するに当って周囲の眼がなにを語っていたか、思い起すことができるでしょう。おそらく、それは複雑なものであったろうと思います。
 俳優の仕事自体に対する偏見、俳優を人間として見ての偏見、その二つを今あげましたが、それを一つ一つ分けて申します。俳優の仕事が尊敬すべき仕事ではないというような考え方は一体どういう風にして起って来たか。この前お話をしましたように、俳優とはなんぞや、俳優の天職とは何か、それがはっきりわかれば、俳優の仕事は十分尊敬すべき仕事であり、また俳優は人間として、ほかの仕事に携っている人間と少しも変ったところはないのだということがわかるのですが、それにも拘らず、前に云ったような偏見が世間にあるのはどういうわけかというと、先ず第一に、俳優芸術というものに対する理解がないからです。
 俳優は公衆の
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