個人個人でその芸術を鑑賞し、娯しむという、そういう芸術の形態が非常に発達しました。例えば、文学でも一人で以て本を読むということが先ず普通です。音楽でも例えばレコードをかけるとか或はラジオであるとか、どうかすると自分の部屋で自分だけで娯しむということが、芸術を楽しむ娯しみ方に今日ではなっております。そういう芸術の形が現在は発達しておりますけれども、しかし、これは近代に於てそういう形に発達したのであって、元来文学でさえも、昔は大勢が同時に娯しむという形で発表されていた。つまり、物語の作者は大勢の聴き手を前にしてその物語を自分で語った。詩人は自分の作った詩を大勢の聴き手の前で朗誦した。場合によっては音楽の伴奏をつけることもある。美術なども同様です。昔は個人の住宅の室内を飾る美術品も勿論皆無ではありませんけれども、多くは公衆の寄り集る所、或は公衆の眼にふれる場所を装飾する為の美術品というものが第一位を占めていた。ところが次第に美術というものは、建築を除いて、多くは個人的にそれを娯しむということに今日ではなってきました。
ところが、演劇だけはあくまでも集団としてこれを鑑賞する形のまま残されてい
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