ることなので、その点を忘れた所謂俳優とはなんぞやという問題への回答は殆どなんら価値はない。少くとも私の話を通じて、その原則を頭においていただきたい。そうして初めて、現在の演劇の問題、現在の俳優の問題にふれて行くことができ、そこに初めてみなさんの立派な態度というものが生れてくるわけです。

     2 俳優の天職

 次は俳優の天職という問題です。
 先程いいましたように、俳優というのはもともと人類のお祭というものを司る一つの神聖な職業であったのです。最初の精神はそういうものでありましたが、次第に社会の移り変り、人間の所謂智慧の発達というようなことにつれて、世の中の仕事がいろいろ複雑化して、そこに分業が行われるようになって、俳優が所謂神を祭る仕事と段々に分れてきた。つまり神主とか司祭とか或は僧侶とかいうものと離れて、俳優というものが分業になって来たわけです。
 分業になると、そこから俳優がかつては神を祭る職業であったということが段々忘れられて来て、反動としてもっとも人間的な姿として俳優が神の祭壇から遠ざかったのです。その神の祭壇から遠ざかるということはいわゆる信仰を失うということではな
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