たその素質に於ても劣っていて、しかも偶然のいろいろな機会に恵まれて、一躍スターになったような俳優が、サラ・ベルナァルを真似すれば、それは滑稽以上のものではない。周囲のものは、蔭で舌を出して笑っていることでしょう。そういう光景も私はやはり見ております。
大体これで皆さんに話しておきたいことは云い尽しましたが、もう一つ附け加えますと、職業人としての誇りと嗜みというなかで、いわゆる、役の軽重という問題についてお話したいと思います。
よく芝居なり映画なりで、役が軽すぎるとか小さすぎるとかいうので、役者がぶつくさ云う話を聞く。勿論どんな人でも、自分の演ずる役が、脚本の中で重大な役であることは嬉しいでしょう。他の人が重要な役をつとめて、そうして自分とそれ程才能も違わないと思うのに、自分の方が小さな、いわゆるつまらない役をやるということは、その俳優にとっては幾らか自尊心を傷けられるように感じられるかも知れない。その不満を公然表明する。そこで役が揉めるということになる。これは恐らく芝居始って以来、興行者、或は演出家が、この俳優の役もめには手を焼いているのであります。一般から云っても、今日まで少しも
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