味に用ひてゐるのであるが、これは近代の「頭で演じる芝居」に於ては、例の「感性」(又は感受性)と並んで俳優の素質中、最も重要な位置におかるべきものである。
 かくの如く人間の性能は、常に相交錯して一の働きをなしてゐるものであるが、「感性」一点張の役者が、次第に、過去の芸術家となりつつある現状を見るがいい。新しい時代を感じる能力は、所謂、「感性」の働きだけではない。現代的な生活表現をとらへることは既に頭の問題となつた。この根本的な素質こそ、新時代の俳優に応はしい素質である。それは常に非凡な「知力の働き」から生れて来なければならないものである。

 俳優の「感性」が最も重要な働きをなすのは、その役を演じつつある瞬間瞬間である。自ら批判訂正を許さないこの芸術にあつては、その表現に際し何よりも「感性」が先きに立つ。然しこの「感性」は断じて「頭に描き得たもの」以上には触れることができない。即ち如何に鋭敏な「感性」をもつた俳優でも、「誤つた解釈」「浅薄な理解」はこれを如何ともすることができない。誤つたなりに、浅薄ななりに、唯その役を「それなりにうまく」表出するだけである。これは屡々所謂、旧時代の名優
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