情慾が服を光らすキャフェ・ド・パリのテラス。
 一週間滞在の旅客が宝石屋の飾窓にしがみつく。
 それが若し東洋の紳士なら、英語で「面白いものを見せてやるから……」と云つて見給へ。


     モンマルトル

 巴里の哄笑と吐息――
 傍若無人な粋士と感傷的虚無主義者とが踊り子の脚を批評する。
 こつちは、オスカア・ワイルドの親友でなければ、ロオトレツクの弟子か。
 どつちでもない。それぢや「|取り持ち《マクロオ》」だ。
 日曜服のタイピストなんか御免だと云ふやつ――など。

 機智――「僕といふ人間が存する、それがわるければ御免なさい」
 趣味――「すぐわかつちや面白くないね。しかし、考へるのはいやだ」
 哲学――「どうにかなつて行くよ」


     ルウヴル博物館

 一日で一と通り観たといふものは何も観てゐない。
 一と月通つてアングルを観たといふものは、アングルだけについて話すことを許される。
 一年間、毎月二度つゞ、足を運んだものは、もう一年かゝつて、始めから見直す必要があるだらう。
 わたしは、宝石を鏤めたルイ十四世の王冠の前で、ラシイヌの詩を想つた。


     バス
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