お引合せする光栄を得ましたについて、何よりもうれしいことは、両先生のさういふさつぱりしたお気持と、この村の村長さんはじめ、村民の方々の、かういふ仕事に対する十分な、ご理解とが、ぴつたり一致して、今後この村から病人を一人も出さないやうにといふ望みが、今、こゝに満ちてゐる春の日射しとともにお互の胸に湧き起つてゐるのがはつきり感じられることであります」
その日の暮れ方ちかく、一行は山を降つた。
「この遠足は、しかし、ちょつとしたもんだつたね」と、B博士は感慨深げに云つた。
「ちよつとしたもんだ。ところで新聞に出す手は絶対にないな、医師会の半分が動き出すまでは……」と、C先生は応じた。
次男
鳥居朝吉君は弟の手紙を繰返して読んだ。
弟は郷里の中学を終へ、高等学校の試験に通つてゐながら、進んで現役志願をして満洲へ渡り、守備隊勤務に服してゐる間に、病を得て内地の病院へ還され、そこで除隊になつて現在は父母の膝下で静養をつゞけてゐるのである。
[#ここから1字下げ]
――からだの方はだいぶんよくなりました。兄さんが結婚されたことをハルビンで聞いた時、僕はこれでもう安心だといふ気がし
前へ
次へ
全20ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング