れてゐるくらゐです。
 韻文としての和歌や俳句の妙境は比較を絶してゐるとは云へ、美術に於ける絵画、彫刻、建築、工芸の粋をとつてみれば、日本人の精神の鋭さ、深さを示す好適例は無数にあるのであります。
 学問の領域に於ても、最近の研究に従へば、哲学の如き抽象理論の追求は別として、自然科学、特に数学の発達は、明治以前に於て著しいものがあるとのことです。
 本草学としての薬草の採集、観察、実験の価値などは、将来、世界医学の根柢を覆すものと期待する向もあります。
 この領域のことは、私は受売りに過ぎませんから、確信をもつて事実を述べることはできませんが、少くとも、古来、学者と云はれる人物の日本的特性を考へてみると、甚だ興味あることは、彼等が常に経世済民の志を掲げ、「学」と「徳」と「芸」とを一体として身につけ、更に「文」を業としつゝも、「武」の道をもつて心の備へとしてゐたことであります。即ち「士人」をもつて常に自ら任じてゐたのです。
 芸術の分野にもう一度帰れば、日本人の「美」の理想は、単なる感覚的なものではなく、そこには必ず、品とか、気韻とか、風格とかいふ、つまり倫理的な高さを求めました。それと
前へ 次へ
全42ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング