、経済的にも、その必要がなかつたからとも云へるのでありまして、ひと度、それが国家の自衛及び発展上欠くべからざる要件だといふことになれば、たちまち、僅か数十年間に、それらの点にかけて優越を誇つてゐた国々と殆ど肩を並べるまでになつたのみならず、ある点では、遥かにこれを凌駕したのであります。
 それはいつたいどういふわけかと云へば、いはゆる「文化」の標準を、もつと別なところにおいて、即ち、複雑な組織を作る代りになるべく単純な道筋で用を足し、合理化に努めるよりも寧ろ道義化に意を用ひ、分析分化に浮身を窶さずして綜合と直観の力によつて事を弁ずるといふ流儀が、測らずも、他の流儀の会得と利用を容易ならしめる底力となつたのであります。
 してみれば、一方の流儀からみて低いと思はれた「文化」は、その実、思ひがけない別の流儀の、しかも、それはそれで相当に高い「文化」であつたといふことが、解るものには解らなければならないのです。
 わが古典文学にみる生活感情の豊かさと表現力の逞しさ、西洋ではまだやつと素朴な手法の物語が生れかゝつた時分、日本の王朝時代には既に、「源氏物語」のやうな幽玄きはまる小説文学が創り出さ
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