り、如何なる事態に立ち至らうとも、同胞互に一椀の食を悠々分ち合ふ悦びと意義とを、今日只今から、国民すべての胸にしつかりと植ゑつけておかなければなりますまい。
為政者の「我慢をせよ」といひ、「間に合せよ」といふ言葉を、国民は、殊に青年は、文字どほりに受けとつてはなりません。そこには、むろん、「いたはり」の意味もあるのでありませう。しかし、日本の将来は――日本の飛躍と興隆とは、決して、そんな「生ぬるい」消極的な態度によつて約束されるものではないのであります。
[#7字下げ]六[#「六」は中見出し]
日本の現代文化は、しかし、前に述べたやうな、卑俗な現象ばかりで成り立つてゐるのではありません。
国民の健康な常識は、おほかたこれを軽蔑し、嘲笑し、憎んでさへゐるのです。ところが、知らず識らず、それに慣れ、無反応になり、やがては、かういふものかと諦めるやうになるといふわけであります。
それなら、何処にわれわれの美しい歴史と、誇るべき伝統があるのでせう。
近代風な街の何処をみても、そんなものは見当らないやうに思はれます。すると古典的な、格式を保つた日本の「家」の光景が眼に浮びます。
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