といふことは、日本人錬成の理想を示したもので、常に知情意の円満な調和的発達を目指し、「嗜み」が深いと云へば、それはもう、道徳的に善であり、知的に真であり、また情操的に美であるといふ条件を完全に備へてゐることを指します。
その面白いひとつの場合をあげれば、ある人物が物を云ふ時、わざわざ妙な声を出す。すると「嗜み」のない声と云つてこれを嗤ひます。どういふわけかといふと、その声は、いかにも場所柄にふさはしくない、馬鹿げた、頓狂な、ふざけた声である。その人物の徳性も疑はれ、聡明でないことがわかり、かつ、耳に快く響かないといふ三拍子揃つた欠点を暴露したことになるからであります。
「嗜み」は元来、訓練によつて身につけるものでありますから、物の価値判断はその勘によつて綜合的に働き、それがつまり、「文化」の健全性を誤りなく識別する基準となるのです。
[#7字下げ]四[#「四」は中見出し]
更に日本文化の特色として、包容性をもつてゐるといふこと、同化力が強いといふこと、しかも、その同化は必ずしもものを一色に塗りあげることをせず、その異質的な形態をそのまゝ存続させつゝ、並行的に処を得させるといふ一
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