題はありません。
次に生活技術といふ点になりますと、明治末期以来非常に退歩してゐます。伝統的な生活技術を親から受けつがないで、新しい西洋の技術を身につけようとしてゐるところに空隙が出来て、生活技術の貧困といふ現象を起してをります。例へば、洋風の家に住む人は、本当にそこに住んでゐるのではない。住まされてゐるといふ感じであります。どうかするとそのために疲れる。暑すぎたり寒すぎたりして風邪をひくといふやうな現象が頻々と起つてゐるのではないかと思ひます。昔はこんなことがなかつた。衣食住の技術は勿論、すべて身についた生活の技術をもつてゐました。
永い間に鍛へ上げられたさういふ技術をいつの間にか捨て去つて、それに替るべき技術をまだ生んでゐないのが現在のわれわれの生活です。西洋風の生活様式を取入れるにしても、さういふ様式が生れた本来の意味は全く考へられてゐない。従つて、多くの場合、前に述べたやうなちぐはぐな模倣に終つてゐる。技術といふものは智識だけではどうすることもできないもので、経験の積み重ねに依つて作られる感覚的な操作を必要とするものでありますから、さうやすやすと新しい技術を身につけるといふ
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