まゝ人に説明できるものではありません。殊に、私自身の経験によりますと、日本でひと通り面白味がわかつたつもりでゐた外国の戯曲を、その国へ行つて、実際舞台にかゝつたところを見る段になつて、ひどく悄げざるを得ませんでした。極端に申せば、その戯曲の本質といふものがまるでわかつてゐなかつたことに気がついたのであります。近頃の所謂「外国語」は、その当時よりもずつと進歩してゐるのですから、私のやうな馬鹿な悄然《しよ》げ方をしなくてもすむと思ひますが、原則として、芝居といふものは、観てみないとわからない。観ても、その面白さを人に伝へることは六ヶ敷いのでありますから、西洋の芝居をお手本にして、日本にも、「新しい芝居」を作り出さうとした三十年前の演劇革新運動は、誠に、もどかしいものであつたらうと思ひます。しかし、さういふもどかしさが、今日はまつたくなくなつたかと申しますと、決してそんなことはありません。中には、日本の新劇は、もう西洋の芝居をお手本にしなくてもいゝ。大体、西洋の芝居を、そのまゝ日本に移すといふことが間違つてゐるので、日本には立派な歌舞伎劇といふ世界にも類のない芸術があつて、われわれは、その伝
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