なかうまいぢやありませんか。さうかしら、ひやかしちやいけません。ひやかしやしません。あんたぐらゐにいけば、どこへ出ても恥かしくない。ほんたうですか。ほんたうですとも。早い話が、あんたゞけの××をもつてゐるものは、そんなにたんとはありませんよ。まあ、もう一度、やつて御覧なさい。うむ、うまいうまい。見込があるでせうか。なに、そんなに有名にならなくつてもいゝんです。え、もう新聞に出てゐましたか。やつぱり、人がゐないんですね。私、今度、かういふことをやつて見ようと思ふんですがね……
 女学校で歌を作ることを習ふ。歌人にならうと思ふ。ヴァイオリンを習ひ出した。舞台で着る裳模様が目に浮ぶ。作文が得意だ。原稿用紙に自分の名前を刷り込ませる。校友会の余興劇で主人公を演つた。『俳優表情論』を書いて『×劇×誌』に送りつける。「黒白」を弁ぜざるも甚しいではありませんか。
 よく人が云ふことではあるが、素人劇といふものが存在し得るだけに、芝居の「玄人」にはなりにくい。然し、現在の日本には、現代劇を演ずる為めの「玄人」が欲しいのです。現代劇を書く為めの「玄人」が、もつとあつてもいゝのです。現代日本の劇作家中、二
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