ない。気の毒になるやうなことはない。安心して芝居が観れる。これだけは有難い。

 演劇講演会は、時々あります。劇場が主催することもあり、コンフェランシャの如き講演機関が主催することもあり、また学校が主催することもある。然し聴衆は固より一定してゐません。
 演劇に関する研究雑誌、研究書籍が極めて少く、殆ど無いと云つてもいゝのは、兎に角、仏蘭西の公衆が、演劇に冷淡な為めではなく、又専門家が不親切な為めでもなく、仏蘭西人は一番「芸術は学問でない」ことを心得てゐるからでせう。それよりも、「理窟を云はなければ芸術がわからないと思つてゐる」連中が割合に少いからでせう。
 無名作家の劇的作品募集といふやうなことも、近頃、「既成作家」の一部が集つてやつてゐますが、また新劇団体の一つが、それをやつたことがありますが、素人が集まつてそんなことをやつてゐる様子はありません。
 それよりも、一時、批評家の間で「無名作家撲滅会」といふものを組織してはどうだといふやうな議論さへありました。それは猫にも杓子にも脚本が書けると思ふ弊風――どこでも同じと見えます――を一掃する為めだといふのです。これは結局、不幸な文芸落
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