衆の「眼」である。
 文芸の鑑賞は、もう一歩先から始まる。

     新しいもの
 旧いところがある、かう云つて新しいものを貶さうとする。
 新しいところがある、と云つて、旧いものが貶せるか。

     頭と心
 頭で書くのがいけないさうである。
 心は、それを聞いて、悲しむだらう。さもなければ、怒るだらう。
 頭と心とは、それほど別々なものではない。

     ある種の批評家に
 ――金を出せ。
 ――やる金はない。
 ――着物を脱げ。
 ――おれは裸でゐなければならない。
 ――貴様はおれの持たないものを持つてゐる。貴様はおれに何かを寄越す義務がある。
 ――何かを……それはわかつてゐる。だから、おれは、こんなに笑つてゐるぢやないか、泣きたいほどだのに。

     「人生よ」と叫ぶ若き作家に
 ――大丈夫ですよ、お母さん、××博士が、きつと治《なほ》すと云ひました。
 ――いゝや、今度は駄目だ。
 ――駄目ぢやありません。
 ――今年は、お父さんの三年忌だ。
 ――此の××日です。
 ――×月××日……お前は知らないんだね、三年忌には仏が迎へに来るといふことを……。
 ――
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