著しく消費的、享楽的であり、且つまた個人的、非公共的性質を帯びてゐたことは争はれぬ事実である。固より文化の正しき消費性は尊重さるべきであるが、新体制に於る文化の建設は、以上のごとき誤れる観念をしりぞけ、全国民的な基礎の上にたつ、生産面にふれた新しき文化を創造し、これが育成とその政治目的の完遂とを、国民生活と東亜諸民族の生活の中に実現して行くことにあるのである。従つて国家成員のすべてがその創造と享受とに積極的に参加しなければならぬ。即ち、明日の文化は、倫理性、科学性、芸術性の三要素の渾然たる融合の上に、更にかくのごとき、正しい高い意味の政治性が加味されねばならぬ。
思ふに、過去に示された我が国の政治上の大改革は、何れも国家の伝統を明徴にすることによつて行はれたことを想起するならば、今日の新体制確立もまた、光輝ある伝統の自覚によつて現代の事実に即応する、精神の更生を必要とする。こゝに伝統の自覚とは、過去に於るある特定の時代、あるひは特殊の歴史的事実にかへる単なる復古に非ずして、何千年来皇室を中心として生成発展し来つた我が国文化の本質に基きつゝ新しい時代の文化を創造する、維新の精神を意味す
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