の間にか国民座を脱け出したらしい森英治郎が加はつてゐる。この新劇畑の逸才は、宝塚から浅草へ何をもつて来たか。
最後に、集散離合を日常茶飯事、又は、流行的見栄と考へる「無策な反逆者」のために、聊か「伯父さん」めいた忠告をさせて貰はう。
御承知でもあらう、モスコオ芸術座が、兎も角も、創立以来数十年間、世界第一の理想的劇団として輝かしい業績を残し得たのは、何よりも、一座の俳優達が、「些々たる小感情のために、自己の成長に便利な母体から、軽々しく離れ去ることの愚かさ」を知つてゐたからである。言ひ換へれば、これくらゐ、脱退者を出さなかつた劇団はなかつたのである。
これだけのことを云つて、さて、上述の脱退組は、恐らく、よりよき団結のために、遠大な抱負を以て最後の決心を断行したものと信じよう。
春秋座といひ、本国劇といひ、これからは、「今まで以上のもの」を、はつきり舞台の上で見せられると公言はできないであらう。しかし、さういふ約束は、させる方が無理である。遠い将来はいざ知らず、今後、二つの劇団に求むべきものは、ただ、多少とも「松竹の色を脱したもの」でありたい。(一九三一・一)
底本:「岸
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