通俗性・大衆性・普遍性
岸田國士
演劇に限らず、芸術作品の通俗性とか大衆性とかが問題になつてゐる。
通俗性と大衆性の区別は、もつとはつきりさせねばならぬが、これは簡単に通俗性とは、芸術的教養なき一般俗衆に、安価な興味と感激を強ふる体の要素を盛つたもので、大衆性とはかかる俗衆の意味でなく、階級としての一社会層の意欲並に好尚を目標とし、人間としての素朴にして健やかな感性に愬へ得る単純明朗な芸術的要素を主とするものであるとしておかう。
ところで、大衆的ならんとして、通俗性に陥ることがある如く、通俗的なるがために屡々陥るところの悲惨は、それが大衆的ならざることであり、同時に、真の意味の普遍性を失ふことである。
高踏的なるものが普遍性に乏しきことは、自ら求むるところに近いが、最も広い層に愬へようとする意図が明瞭に示されてゐながら、その結果はこれに反するといふ事実に、演劇当事者は注意すべきである。
商業劇場のことは我れ関せず、私は当今の新劇が、観客層の開拓を心がけ、早くも職業的ならんとして、意識的に通俗性を目指す傾向を憂ふるものである。無論通俗的になりきれば、それは新劇ではないのである
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