いのは、実際問題として不都合であらうと思ふ。次に、新聞雑誌に掲載したものを、「三ヶ月」経過しなければ別途に利用できないといふことは、著作者のみならず、出版者側にとつても不必要な規定のやうに思はれる。第七条、出版権の譲渡は一応著作者の同意を得るやうにしたい。第十条は著作者側の利益を顧慮したすこぶる玩味すべき条文であるが、「正当ノ理由ナクシテ」といふ一句で、出版者側に巧みにその運用を阻止してゐる。これは甚だ機微な問題であるが著作者側としては出版権が継続してゐるからといふ名目の下に、その期間、如何なる理由にもせよ「売れなくなつた本」をそのまま葬つて置くことは苦痛であらう。これは第九条にある出版者側からの「通告」をまたず、適当の時期に、著作者より契約解除の申出をしたいものだ。この場合、見込違ひ、又は販売技術に関する責任を出版者側で負ふのはやむを得ないことゝ思ふ。
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 要するに、出版契約の締結といふものが、これまで甚だ軽視されてゐた実情であるから、将来、これを励行するとしても、利益の観念に多少相違もあり、一般の想像以上実務に疎い大多数の著作者を、出版者側の意見に服せしめるこ
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