著作者側の一私見
――出版権法案について――
岸田國士

 世間は、出版権と著作権とが飽くまで相反する利害の上に相争ふものであると誤認してゐるやうであるが、それは悪出版者と不良著作者との間に限ることで、寧ろ出版権法の精神は、対著作者の関係以上に、同業者間の職業的良心に訴ふべき性質のものであること、著作権法と同様である。元来、出版者並に著作者は、一種相互扶助的存在で、互に相犯さず、両々相まつて始めて事業の生産的文化的意義を発揮するものであるから、一方の権利を尊重するため、他方の権利をじうりんする結果が生じるやうな法律は決して完全なものとはいひ難いのである。
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 著作者側からいへば、今度の出版権法案は、この点に関し、いまだ幾多研究の余地もあり、二三の条項は、根本に危険な精神を含んでゐるやうに思はれる。私個人の意見ではあるが、例へば、第四条の但書は、出版契約の「単ナル不備」のために、著作者は、永久に著作権を喪失するやうに解釈されるのである。また、第六条、全集うんぬんの件についても、「著作物発行後十五年」は、どういふ例から見ても長すぎるし、殊に、著作者死亡の際を考慮してな
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