くはへて打ち眺める。その令嬢も、その親も、その隣の息子も、君の眼には一様に面白くはないか。芸術家よ、しばらく親心を棄給へ。
 大きな声では云へないが、人生は文学者だけがどうにかしなければならない人生でもなく、文学者だけがどうにかできる人生でもない。
 たゞ、「書いてゐることしか考へてゐない」文学者ばかりもなく、「考へてゐることをみんな書く」義務はこれまた文学者にもないのである。
 おつと、こんなことを云ふんではなかつた。
 誰だい、手なんか出す奴は。



底本:「岸田國士全集19」岩波書店
   1989(平成元)年12月8日発行
底本の親本:「都新聞」
   1925(大正14)年3月15、17、18、19日
初出:「都新聞」
   1925(大正14)年3月15、17、18、19日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年9月5日作成
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