悦子  あたし、お水一杯ほしいわ。汲みたてない?(一寿が起たうとするのを止めて)いいわ、いいわ、あたし、行つて飲んで来るから……。コツプ貸して……。(戸棚へ行つて、自分でコツプを出す)
一寿  わしが持つて来てやらう。
悦子  いいのよ、さうしてらつしやいよ。

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悦子は、幾分重い足取りで廊下に出る。一寿はぽかんとそれを見送つてゐる。やがて、起ち上つて、蟇口の中を検める。紙幣が二三枚小さく畳んで入れてある。チヨツキのカクシに指を突つ込んで、小銭をつまみ出す。ちよつと考へる。が、別に何も気がついた風は見えない。
十二時の汽笛。
悦子が、帰つて来る。顔が蒼ざめてゐる。
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悦子  おうお、寒い。
一寿  さあ、あたれ、あたれ……。(椅子を一脚火鉢のそばへ引寄せてやる)
悦子  おらくさん、どうしてます?
一寿  うむ?(聞えないふりをしてゐる)
悦子  おらくさんよ。近頃、どうしてますつて訊いてるの。
一寿  (曖昧に)いやあ……あれもねえ……なんちゆうことはないさ。
悦子  あたし、ちつともかまは
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