愛子 ええ、ありがたう……。だけど、あたしたちは、姉さんの云ふやうに、近くなつたなんて、うそだわ。大うそだわ……。
悦子 あら、どうして?
愛子 (冷たく)パパ、あたしは、今日から、この家を出てくわ。なんにも心配しないで頂戴ね。いろんなことが、だんだんわかつて来たからだわ。自分の生活は、お父さんや姉さんのそばにないつてことがわかつたの……。(入口に立つてうしろを振り返り)居所がきまつたら、すぐお知らせするわ……。
一寿 おい……愛子……。
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愛子姿を消す。
悦子は、しばらくそれを見送つてゐるが、ふと、父の眼に涙を発見し、急いで、自分もハンケチを取出す。
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三
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あるアパートの一室。正面に扉。右手に窓。左手に幕を引いたアルコーヴ。寝台の一端が見える。室の中央に瀬戸火鉢。
前場より二年後の冬、昼近く。
扉をノツクする音。
寝台から、むくむくと起き上つた男は、無精髭を生やした沢一寿である。彼は、扉を開けに行く。奥井らくが立つてゐる。
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