かにあるわ。いくらだつてみせられる……。さうよ、なぜ拒まなかつたかつて云ふんでせう。ああ、女つて、そんなもんぢやないわ……。(卓子に突つ伏す)
[#ここから5字下げ]
この時、悦子が忍び足で、入口に現はれ、父の方に眼くばせをして、快げな微笑を送る。一寿は、それに応へる代りに、静かに瞼を閉ぢる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
悦子 (そつと愛子の肩に手をかけ)大丈夫よ、大丈夫よ、愛子ちやん……。あたしたちが附いてるわよ。長い間、ひとりで苦しかつたでせう。可哀さうに……。そんな秘密をあんたが持つてると判つたら、あたしは、もつともつとあんたを労はらなけりやならなかつたんだわ……。遠くにゐたあんたが、今、急に、こんなにあたしたちの近くへ戻つて来ようなんて……それこそ、夢のやうだわ……。だから、あたし、悲しいのか、うれしいのかわからない……。さうよ、葬らなけりやならない過去は、早く葬つてしまはう……ね。あんた、まだ泣いてるの……?
愛子 (急に顔をあげ)うゝん、泣いてなんかゐない……(その通りである)
悦子 もつと、あたしのそばへ寄りなさいよ。
前へ
次へ
全70ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング