沢氏の二人娘
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)この家《うち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)あなた方御|同胞《きやうだい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから5字下げ]
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沢 一寿
  悦子  その長女
  愛子  その次女
奥井らく  家政婦
  桃枝  その子
神谷則武  輸入商
田所理吉  船員、悦子等の亡兄の友人

東京――昭和年代
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     一

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某カトリツク療養院の事務長、元副領事、沢一寿(五十五歳)の住居。郊外の安手な木造洋館で、舞台は白ペンキ塗のバルコニイを前にした、八畳の応接間兼食堂。
古ぼけた、しかし落つきのある家具。壁には風景画と、皿と、それらの中に、不調和にも一枚の女の写真が額にしてかけてある。三十五六の淋しい目立たない顔である。丸髷に結つてゐる。飾棚には、細々した洋風の置物。記念品らしい白大理石の置時計。バルコニイの手摺に色の褪せた副領事の礼服が干してある。

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