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 さうかと思ふと、日本には英語だか仏語だかわからない外来語が平気で使はれてゐる。シユウクリイムの如きはその一つ。これは察するところ、仏語のシユウ・ア・ラ・クレエムの転訛であらう。誰かが英国に渡り、シユウクリイムを呉れと云つたら、靴墨を持つて来たといふ話がある。その他、マイヨナスソオス、オランジエド、クレエムレエト、等々何れも似て非なる外国語である。
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 巴里駐在の我が外交官が、パリジエンヌ(Parisienne)をパリジヤンヌと発音する時代である。
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 最近日本に来たある西洋人が、貴族院の開院式か何かを見て、「日本の政治家たちのうちに、袴をはいて絹帽《シルクハツト》をかぶり、そして人力車に乗つてゐるのがあつた。あれは、あんまりひどい。見てゐて吹き出したくなつた」といふから、僕は、「そんな筈はない」と云ふと、「いや、たしかにあつた」と云つて承知しない。
 茲に於て僕は慨歎之を久うしたが、いくらそれが「あり得べからざることだ」と云つても、相手を承服させることが不可能な、様々の今日の事情を如何ともすることができなかつた。
      
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