大正風俗考
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)絹帽《シルクハツト》
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 和洋折衷といふやうなことがどこまでうまく行くか、わたしは知らないが、わが国の新しい生活様式が、どうせさういふ処へ落ちつくのだらうと思つてゐる。
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 風俗の国際化は、たしかに二十世紀の著しい現象である。日本にゐると、日本人だけが西洋人の真似をしてゐるやうに思はれるが、西洋へ行つてみると、そこでは、婦人の服装や、室内の装飾にまで東洋趣味が取り入れられ、甚だしきは、東洋の生活に憧れるあまり、椅子を廃して米の飯を食つてゐる男さへある。
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 同じ欧羅巴でも、例へば、仏蘭西と英吉利とでは可なり風俗の違ひがある。それが近頃ではだんだん目立たなくなつて来た。
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 日本では、例へば西洋料理の食ひ方はかうと、いつの間にか英国流の作法が標準のやうになり、フオオクは左手で持つものときまつたらしいが、これなども、うつかり仏蘭西式にフオオクを右手に持ちかへると、日本のハイカラな紳士淑女からは、却つて笑はれるかもしれない。
     
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