に染らないで今日まで来たのでありますが、自分の身辺に吹き荒んでゐるその左翼的な嵐といふものを身に感じるにつけ、日本の青年が一体どうしてさういふ外国の社会主義思想乃至は左翼思想といふものに眩惑され、またさういふものに引つ張られて行くかといふその経路と動機、それからその根本の理由といふものに就てつくづく考へさせられ、実際さういふ運動に投じた者、或はさういふ運動に投じようとしてゐる者、更にさういふ運動から転向して来た者などの実例を通じて、いろいろその事情を考へて来たのであります。それでこの点は後で司法当局のかたにも御意見を伺つてみたいと思つてゐるのでありますが、その一番大きい原因は何処にあるかといふことであります。日本の青年が学校でいかなる教育を受け、或はまた、社会の思想家たちからいかなる影響を受けようと、自分は日本人である、或は日本の国体は尊厳であるといふことに就て絶対的な否定観念をもつてゐるものは殆どない。勿論さういふ表現をし、或はさういふ表現をせざるを得ないやうな事情に立ち到つたものは相当あつたと思ひますが、本質に於て自分は日本人であるといふ自覚、矜り、さういふものを本当になくしてゐる
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